「しょせん、生きてゆくことは、こわいことだ。だがな、翡媛さん。
わしはありがたいことに、貧窮した。飲まず食わずで日をすごさね
ばならぬことがあった。それでも妹にはひもじいおもいをさせなかった。
その経験が腹のなかで生きている。だから、生きてゆくこわさが、
人とはおそらく違う。耐えるということが、どういうものか、いちおう
わかっている。それだけでも、生きるこわさをやわらげてくれている」
と風洪はそういった。
私もそう思う。大切なものを守るために、何が怖いんだろう。
というよりも守るだけで精一杯になって怖がる余裕さえないでしょう。
でも、守るものがなくなったときに、その恐怖さも飢餓感も浮かべて
くる。
耐えることも、貧しいこともさほど怖くなんかないけど、
大切なものを見失ったときに、人間は弱虫になるものだ。
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